オブザーバーの幻影たち vol.5
そう言う彼女の目は、やはり悲しげだった。
僕だって同じさ、出来ることならずっとここにいたい。だれにも縛られず、誰にも支配されず。それでもいつか終わりは来てしまう。
「この世界だって、限りあるからいいなって感じるんじゃないか?ここに一生いるってのも案外退屈かもよ。」
と、名言じみたことを言って隣に目を遣るが、そこに彼女の姿はなかった。
「みてみてー!蝶々さん捕まえた!可愛いでしょ」
さっきまでの哀愁漂う雰囲気から一変して、彼女は笑顔でこちらを見つめる。年齢的には20代前半ぐらいだというのに、精神的には、子供のようだ。
「まったく。人がいい話をしてるっていうのに」
「ごめんって~。ねえ、あの壁乗り越えると海なんじゃない?いってみようよー。」
まるでこっちの話を聞いていないが、彼女にまったく悪気はないのだろう。まるで無邪気な子供のようで、悪い気もしなかった。
僕にはそういう子供の頃の感覚がもうなくなってしまっているのだろう。いつの間にか大人になってしまったのが、悲しかった。
僕は、彼女に手を引かれ壁まで走り、石の階段をかけ上がるとそこには、一面に大きな海が広がっていた。