オブザーバーの幻影たち vol.6
「うわぁ~。綺麗」
そこに広がっていたのは、180度に広がる一面の海。雲ひとつない空。太陽の輝きは、水面に反射しダイヤモンドのようにきらびやかだった。
「こんなきれいな景色を見たのはいつぶりだろう。」
「私も。」
僕達は、その神々しくどこか懐かしいようなその景色に、しばらく見とれていた。
「海。いこう!」
再び彼女は、僕の手を引いて駆け出す。
「うわ、冷た」
「気持ちいい~。ほれぇ~」
「おい、やめ……。この野郎!」
それから僕達は、水をかけあったり、服を着たまま海を泳いだり、子供のように遊んだ。
気づくと辺りはすっかり黄昏につつまれていた。疲れきった僕らは、砂浜に大の字になって余韻を楽しむ。
「懐かしいな、こんな気持ちになったの……。私、思い出したんだ。」
神妙な面持ちで、話す彼女の目からは、涙が一筋伝っていた。
「私ね、前にいた世界から逃げたしたかった。だれか助けってずっと思ってた。だれかこの世界から連れ出してって、そう思ってた。」
自然と僕の目からも、一筋の涙が頬を伝う。
「俺だってそうさ。君と同じようにそう願ってた。そしたら、君に会えた。似てるんだな俺達。」
「また会えるかな?」
お互い、この楽しい一時に終わりが近づいていることを感じていた。何もかも忘れていたが、終わると思うと一気に胸が重くなった。
あの世界に戻るということ、また会える保証なんてまったくないこと。こんなにも辛いなら、初めから出会わなきゃ良かったとさえ思ってしまう程に、僕は人生で始めて本当に泣いた気がした。
「会えるさ、きっと。」
「さようなら」
バサッ。
僕は、布団から飛び起きた。
「あぁ……。」
僕はやはり泣いていた。
これだから、嫌なんだ。こうゆう夢は、見た後が辛いのは分かっているはずなのに、受け入れることが出来ない。
こちら側の世界がまた始まってしまった。
「ごきげんよう。」
どこから、ともなく声が聞こえる。
「後ろ。」
いわれるがまま振り返るとそこには、黒い人型の影のような物体。この世のものではない何か、人に似た何か。
「え……。」
僕は思わず、少したじろいだが、目の前のそれにいつの間にか見とれていた。
「…………。」
性別は分からない。男とも女とも取れる声色だった。吸い込まれてしまいそうな漆黒の身体に、スーツの上着ような物を一枚羽織っている。
長い髪が、ふわふわと風もないのに靡いていて、片目だけがはっきりと確認できた。それでもこいつは、ただ人間ではないことは誰の目からみても明らかだった。
「君誰だよ。」
何故か僕は、冷静だった。
「観察者……。とでもいっておこうかな。」
「で、俺を観察してどうするつもりなの?」
「僕は、誰の中にでも存在していて空気のようなそんざいなんだ 。僕は突然現れる。何故僕がでで来るのかそれは僕にも分からない。」
彼は淡々と話した。にわかに信じがたいが、これが夢でないならば、目の前のそれはたしかに存在しているのは自分自身の視覚が証明していた。
「理由は良く分からないけど、いま俺ちょっと嬉しいよ。そういう別の世界というものが存在するのが分かってさ。」
「別に特別な訳じゃないよ。僕は常に存在しているんだからね。目に見えていないだけで、どこにでもいるただの概念さ。それが突然君にだけ見えるようになって現れた。それだけのことさ。」
「良く分からいな……。現れてくれたことは嬉しいけど、こうゆう場合僕に何か特別な力をくれるとか、そうゆう事ではないってこと?ただ観察するだけ?。」
「そうだけど。」
「そうかい……。でも、出てきたってことは、何かしら起こるんじゃないか?」
「起こるかもしれないね。でも、どうなるかは僕にも、わからない。」
彼はとぼけているようだったが、返事から察するに時が来れば何か起こるという感じがしたので、それ以上は詮索しないことにした。