オブザーバーの幻影たち vol.7
ふと気づくと目の前のそれを「彼」と呼んでいる自分に気づいた。
「彼」の一人称は、僕だったので自然と男だと認識しているが、時より靡く長髪から女性を思わせるような整った目鼻が見え隠れしていた。
「君は、女の子なの?」
僕はつい気になって聞いてみる。
「性別なんてものは僕達|観測者《オブザーバー》には必要がないんだ。さっきも言ったように、どこにでも存在して、突然現れる。つまり繁殖の必要がない。それに比べて君達は大変だよね、増え続けなきゃ滅亡してしまうのだから。」
彼はやはり、表情ひとつ変えずに、淡々と話すだけだった。
「だったらさ、君が本当にそういう人間とは別の存在だってことを証明してよ。」
「しょうがないな」
彼は、腕まっすぐに伸ばすと。閉じていた手をゆっくりと開くと
「はっ」
バゴンッ
そう彼が叫ぶと、僕の部屋の壁が丸く、くり貫かれたように消えた。
衝撃波ような音もしなかった。たとえるなら空間ごと消えたていう表現が適切だろう。
「わぉ…………。」
僕は、少しビックリして言葉を失ったが、すぐ我に返る。
「おい、これどうするんだよ」
「問題ない」
彼は、開いた手ゆっくりと閉じた。
「ほら、問題ない。」
空いていた穴は、何事もなかったのように閉じていた。
「…………。わかった信用するよ……。」
「結構。でも、これは君を助けるためのちからではない。この力は僕のためだけに使う。それがルールなんだ。」
この力で、気に入らない奴らを消してもらおうとか思っていた僕は少しがっかりした。
始めは、半信半疑だったが、彼に対しての現実味が増してきたせいか僕の心は踊っていた。
自分との間に異世界や異能などといった別世界との接点が出来たことで、自分が特別な人間になれた気がして嬉しかった。
心のどこかで諦めていた、自分は特別だと信じてやまない心が、再び僕のなかをぐるぐる回り出した気がした。僕自信はなにも変わっていたのにだ。
人間というのはやはり単純で、何かの本で呼んだ心の持ちようで何者にもなれるという言葉は、あながち間違っていない。
「あ、やべ。仕事いかなくちゃ。」
完全に遅刻だった。
死ぬほど働くのが嫌だった僕は、出勤のために家に出るギリギリまでいつも寝ているのがルーティン化していた。
いつもなら、死にたくなる失態だが今日の僕は、無敵だった。自分自身の特別感に浮かれていたのだ。
「これから仕事に行くけど、君はどうする?」
「僕のことはお構い無く、必要なとき突然現れるから。」
「あと、いま気づいたんだけど、君が欲しがっている力。もう与えられてるようだよ。よかったね、じゃあまた……。」
そう言い残すと、なんの跡形もなく彼は消えた。
「なんなんだあいつ。」
力なんて、何もあるようには思えなかった。
しかも彼は、もう持っていると言ってた。ひっかかる事だらけで、気持ちが悪かったがとりあえず、僕は会社へ向かった